消費税8%→1%。価格は下がるのか、仕入れは下がるのか。
2026年8月5日、政府は臨時閣議で、基本方針を決定した。
飲食料品の消費税率を、2027年4月から2年間、現在の8%から1%へ引き下げる。
ニュースの見出しは、そろって「家計の負担が軽くなる」と伝えている。
だが、私たちが知りたいのは、その先だ。
店頭の価格は、本当に下がるのか。
飲食店の仕入れは、軽くなるのか。
賛成か、反対かの話は、ここでは書かない。
すでに十分、書かれている。
数字で確かめられることを、確かめておきたい。
まず、決まったことの整理。
決定日:2026年8月5日、臨時閣議
内容:飲食料品の消費税率を、8%から1%へ
期間:2027年4月から、2年間
位置づけ:基本方針の決定
ここで、二つ、注意点がある。
ひとつ。これは「基本方針」の決定であり、実施には税制改正法案の成立が必要になる。
詳細な制度設計は、これから詰められる。
もうひとつ。対象は「飲食料品」だ。
現在の軽減税率8%の枠組みがそのまま使われるなら、酒類と外食は、対象から外れる。
つまり、店内飲食は10%のまま。テイクアウトと出前は1%。
その差は、2%から9%に広がる。
この一点だけで、飲食店の実務は、確実に変わる。
1. 家計には、いくら届くのか。
税込8%の価格が、そのまま税率1%に置き換わったとする。
このとき、価格は約6.5%下がる計算になる。
月の食費で見ると、こうなる。
- 月3万円の世帯 → 月およそ1,900円、年およそ2万3千円
- 月8万円の世帯 → 月およそ5,200円、年およそ6万2千円
ここから、二つのことが同時に言える。
絶対額では、食費の多い世帯ほど、多く得をする。
月8万円の世帯は、月3万円の世帯の、およそ2.7倍を受け取る。
所得に対する割合では、所得の低い世帯ほど、効果が大きい。
年収300万円で年2万3千円なら、0.8%。
年収1,000万円で年6万2千円なら、0.6%。
消費税は、所得の低い層ほど所得に占める負担率が高くなる。
その意味では、この減税は、負担率の差を、いくらか縮める。
どちらの数字を重く見るかで、評価は変わる。
ただ、数字そのものは、これだ。
2. 店頭の価格は、本当に下がるのか。
ここが、一番の論点だ。
結論から言うと、下がる保証は、ない。
理由は、消費税の仕組みにある。
価格を決めるのは、国ではなく、事業者だ。
税率が8%から1%に下がったとき、事業者には二つの選択肢がある。
A. 本体価格を据え置き、税込価格を下げる。
消費者に、減税分がそのまま届く。
B. 税込価格を据え置き、本体価格を上げる。
消費者の支払額は変わらない。差額は事業者に残る。
2014年と2019年の増税のときは、転嫁対策の特別措置法があり、
取引先に値上げ分の転嫁を拒むことが、法律で禁じられていた。
だが、減税のときに「必ず値下げしなさい」と義務づける仕組みは、基本的にない。
そして今は、原材料費も、人件費も、光熱費も、上がり続けている局面だ。
価格に転嫁しきれていない事業者にとって、
税率の低下分は、値下げの原資ではなく、吸収しきれなかったコストの穴埋めになりやすい。
おそらく、こう分かれる。
- 競争の激しい商品(スーパーの日配品、プライベートブランドなど)は、下がりやすい
- 競争が緩い商品、値上げを我慢してきた商品は、下がりにくい
7%分が、まるごと消費者に届く。
そう期待しない方が、現実に近い。
3. 飲食店の仕入れは、軽くなるのか。
ここは、誤解が多いところだ。
「仕入れの税率が下がるなら、店の負担も減る」
そう考えたくなるが、本則課税の店では、原則として損益は変わらない。
理由は、仕入税額控除だ。
仕入れで払った消費税は、売上で預かった消費税から差し引いて納める。
つまり、仕入れの消費税は、もともと店の負担ではない。
負担でないものは、下がりようがない。
数字で見る。
月商が税抜100万円(店内飲食10%)、仕入れが税抜35万円の店を例にする。
現在(仕入れ8%)
仕入れの支払い:37万8千円
納める消費税:10万円 − 2万8千円 = 7万2千円
減税後(仕入れ1%)
仕入れの支払い:35万3,500円
納める消費税:10万円 − 3,500円 = 9万6,500円
仕入れの支払いは、月2万4,500円、軽くなる。
だが、納める消費税は、月2万4,500円、重くなる。
差し引き、ゼロ。
ここに、実務上の落とし穴がある。
仕入れの支払いは、毎日発生する。
消費税の納付は、年に一度(または中間納付)だ。
日々の支払いが軽くなった分を、運転資金として使ってしまうと、
納税の時期に、増えた納税額を払えなくなる。
消費税の納税資金が用意できずに行き詰まる。
飲食店の資金繰り破綻として、もっとも多い形のひとつだ。
この減税は、その危険を、確実に高める。
4. ただし、簡易課税の店は、話が違う。
基準期間の課税売上高が5,000万円以下で、簡易課税制度を選択している店。
この場合、結論が変わる。
簡易課税は、実際の仕入れ額を使わない。
売上で預かった消費税に、みなし仕入率をかけて、納税額を計算する。
飲食店業は第四種事業で、みなし仕入率は60%だ。
先ほどと同じ店で見る。
現在
仕入れの支払い:37万8千円
納める消費税:10万円 × 40% = 4万円
減税後
仕入れの支払い:35万3,500円
納める消費税:10万円 × 40% = 4万円(変わらない)
仕入れで払う消費税だけが減り、納税額は変わらない。
月2万4,500円、年およそ29万円。
これは、そのまま店に残る。
つまり、小規模で簡易課税を選んでいる店ほど、実質的な恩恵を受ける。
自分の店がどちらの方式か。
そして、切り替える余地があるか。
2027年4月までに、一度、確認する価値がある。
簡易課税制度選択届出書は、原則として、適用を受けたい課税期間の初日の前日までに提出する必要がある。
気づいたときには、間に合わない。
顧問税理士がいるなら、早めに相談しておきたい。
5. 施行までに、やっておくこと。
2027年4月まで、およそ8か月。
短くはないが、長くもない。
1. POSレジ・券売機・オーダーシステムの改修予約
2019年の軽減税率導入時、ベンダーの対応が追いつかず、直前に慌てた店が続出した。
今回は税率がさらに複雑になる。早めに、業者へ確認を入れる。
2. テイクアウト・出前の区分経理の見直し
店内10%、持ち帰り1%。差は9%に広がる。
同じ商品で価格が大きく変わることを、どう表示し、どう説明するか。
3. メニュー表と価格表示の設計
総額表示のもとで、二つの税率をどう見せるか。
刷り直しには、時間も費用もかかる。
4. 課税方式(本則/簡易)の確認
前項の通り。届出の期限から、逆算する。
5. 納税資金の別管理
もっとも重要。
仕入れで浮いた分は、店の利益ではない。預かっている税金だ。
別口座に、分けておく。
6. 2年後を、今から織り込む
これは時限措置だ。2029年4月には、8%へ戻る前提になっている。
システム改修は、2回必要になる。
そして、税率が下がったときに値下げをした店は、2年後に値上げをすることになる。
価格を下げるか、据え置くか。
それは、2年後に値上げの説明ができるかどうかと、セットで考える問題だ。
私たちにできること。
制度が変わるたびに、実務のコストを負うのは、現場だ。
レジを直し、メニューを刷り直し、スタッフに教える。
それは、いつも店の仕事になる。
私たちセルは、飲食店の運営と、開業支援に、深く関わっている。
自分たちの店でも、この8か月で、同じ準備をすることになる。
今のうちに何を確認しておくべきか。
自分の店はどちらの課税方式が有利なのか。
価格をどうするか。
迷っている方は、相談してください。
一緒に、逆算します。
株式会社セル
代表取締役 千葉 聖矢
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